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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(三)酒屋火事
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(三)酒屋火事 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 146,725 characters · 298 screens
「お怪我をなさいませんか」
よくある奴で、流しへ滑って転んだとばかり思い込んだのです。
「あッ血」
起してみると、お六の半身を桃色に染めて、紛れもない血潮。
「中に、人が」
お六は上半身を起して一生懸命石榴口を指しますが、あまりの驚きに、口もきけません。
「浴槽の中に、何かあったんですか」
三助の丑松は、お六をお神さんに任せて、石榴口から中を覗きました。
「あッ死んでいる」
薄暗い浴槽の中ですが、慣れた眼には、たった一と目で、その中に若い女が、俯きになって、上半身を沈めているのが判ったのです。
「どうしたのさ」
お神さんも続いて覗きました。三助の丑松はそれを少し退かせて、油障子の天窓から入る、午後の陽を一パイに石榴口から入れて見ると浴槽の中は、さながら蘇芳を溶いたよう、その中に、上半身を沈めた恰好になって若い女が死んでいるのですから、その凄さというものはありません。
夕陽を受けた深海の水藻のような黒髪、真っ赤な頸、肩から胴腰から下は水の上に浮いて、トロリとした凝脂がそのまま、赤い水に溶け込んでしまいそうにも見えるのでした。
それよりも恐ろしかったのは左貝殻骨の下へ、背後からグサと刺した少し長目、直刃の短刀で、籐を巻いた柄、形ばかりの鉄の鍔、荒砥で菜切庖丁のように磨いだ肌などを見ると――これは後に解ったことですが――