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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(三)酒屋火事
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(三)酒屋火事 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 146,725 characters · 298 screens
能登の国から出て来たという丑松の持物で、江戸の人の眼からは、山奥の猟師か、鯨や鮫を割く漁師でもなければ持っていそうもない不思議なものでした。
「ヒ、人殺しッ」
お神はとうとう悲鳴をあげて流しにヘタヘタと崩折れてしまいました。
「どうしたんだ、三助さん」
ちょうどそのとき男湯へ入りかけていた一人の男は、六尺褌一つで形ばかりの中仕切りを廻って飛んで来ました。
「親分、あの中を見て下さい」
「何があるんだ、冗談じゃねえ、鯨でも泳いでいるのかい」
親分と言われた三十がらみの遊び人風の男、同じく石榴口をヒョイと覗いて、
「あ、これは大変」
さすがに尻餅はつきませんが、顔色を変えて飛退りました。御家人の竹といってちょっと好い男、但し、元は武家の出だというせいか、妙に人付きのよくない、飯田町中の嫌われ者でした。
騒ぎは一瞬にして街中を気狂いにしました。殺されたのは、町内の物持で荒物屋に質屋を兼ねている、近江屋の一人娘お新、美しいのと悧発なのと、婿選びがむつかしいのとで、神田、番町あたりへまでも噂に上っている娘だったのです。
滅多に昼下がりの銭湯などへ来る娘ではありませんが、内湯は夕方でなければ立たず、夕方から日本橋の叔母さんのところへ行って、明日は芝居見物という一年に一度のプログラムがあったので、珍しくも昼湯へ一人でやって来て