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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(十三)青い帯

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(十三)青い帯 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 114,244 characters · 231 screens

Aozora Bunko

銭形平次捕物控

一

「恥を知らぬか、北条左母次郎。――妹御、萩野様は、諫め兼ねて、斬られて死のうとしたぞ。あれを見るがいい」

平次が指さす方、氾濫する灯の中に、ツイ今しがた左母次郎に斬りかけられた黒装束の武家は、覆面を剥がれて、紛れもない妹萩野の顔を晒しているのです。

「――岩井銀之助様は、非道のその方に代って、縛られようとしたことさえあるぞ。人の心の、こんなにも温かく美しい中に、その方の曲りひねくれた根性は何としたことだ。恥しいとは思わぬか」

「…………」

「それとも縄打って、龍の口へ突き出そうか」

「…………」

「十幾人の無辜を殺した悪逆無道、天道様も許してはおかぬぞ」

振りかぶった左母次郎の刃の下に、銭形平次の声は凜々と響くのでした。

「萩野」

曲者は一と声、純情の妹に声を掛けると、次の瞬間、振りかぶった刀を降ろして自分の腹に突っ立てておりました。

「兄上」

飛びつく男姿の萩野。

「妹、許せよ」

キリキリと引廻す刃に、次第に死の色が曲者の頬に濃くなります。四方を照らす幾十とも知れぬ提灯。その灯の洪水の中から覗く夥しい人の顔も、劇的な情景に打たれて、一言の口をきく者もありません。