Japanische Klassiker mit Furigana
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だいぼさつとうげ
大菩薩峠3
中里 介山
Lesen Sie 大菩薩峠3 (だいぼさつとうげ) von 中里 介山 (なかざとかいざん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 214.131 Zeichen · 423 Bildschirme
ところが、いつもその時刻には来ているムクが見えませんから、お君は牧場へ出て、遠く眼の届く限りを見渡しました。しかしそこにもムクの姿が見られません。思うに群犬を率いて興に乗じて、あの山の後ろの方まで遠征して行ったものだろうと、お君は強いては心配しませんでした。
この機会に少し牧場の状態でも見ておこうかと、お君はムクを尋ねながらに牧場の方へと歩んで行きました。
今、お君の頭の中では、ムクのことよりも一層、あのお嬢様のことが考えられてたまりませんでした。お君は自分ほど不幸なものはこの世にないと思っていた一人でした。ほとんど幸福というものを持たずに生れて、不幸という浪の中にのみ揉まれて来たのが自分のこれまでの生涯だと思いました。それを今、あのお嬢様と比べて見れば、自分の方が確かに幸福者であると言われて、なるほどそうかと思わねばならないことほど無惨に感じたのであります。
病気をしたことのない者には、壮健で無事でいることの有難味がわからない。ともかくも、人並に生れついたということの有難味が、この時お君にわかってきて、自分ほど不幸な者はこの世にないと思っていた心は、僻みであったり我儘であったりしたのではないかとさえ思われました。