Japanische Klassiker mit Furigana
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ひがんすぎまで
彼岸過迄
Lesen Sie 彼岸過迄 (ひがんすぎまで) von Natsume Sōseki (夏目 漱石) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 195.333 Zeichen · 385 Bildschirme
三十
それが女のいる前で滑るようにとまった時、中から二人の男が出た。一人は紙で包んだボール箱のようなものを提げて、すたすた巡査の前を通り越して人道へ飛び上がったが、一人は降りると直に女の前に行って、そこに立ちどまった。
三十
敬太郎は女の笑い顔をこの時始めて見た。唇の薄い割に口の大きいのをその特徴の一つとして彼は最初から眺めていたが、美くしい歯を露き出しに現わして、潤沢の饒かな黒い大きな眼を、上下の睫の触れ合うほど、共に寄せた時は、この女から夢にも予期しなかった印象が新たに彼の頭に刻まれた。敬太郎は女の笑い顔に見惚れると云うよりもむしろ驚ろいて相手の男に視線を移した。するとその男の頭の上に黒い中折が乗っているのに気がついた。外套は判切霜降とは見分けられなかったが、帽子と同じ暗い光を敬太郎の眸に投げた。その上背は高かった。瘠ぎすでもあった。ただ年齢の点に至ると、敬太郎にはとかくの判断を下しかねた。けれどもその人が寿命の度盛の上において、自分とは遥か隔たった向うにいる事だけはたしかなので、彼はこの男を躊躇なく四十恰好と認めた。これだけの特点を前後なくほとんど同時に胸に入れ得た時、彼は自分が先刻から馬鹿を尽してつけ覘った本人がやっと今電車を降りたのだと断定しない訳に行かなかった。