Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

Lesen Sie 松のや露八 (まつのやろはち) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 125.597 Zeichen · 253 Bildschirme

Aozora Bunko

変な女があるものだ」

「私は、どっち?」

「おまえか」

「…………」

お喜代は、撥袱紗をだして、膝の上で、ひろげたり、畳んだりしながら、

「え。どっちなの」

「片っ方だよ」

「嫌いな方?」

「ううん」

首を振ったが、露八は諦めの眼を、壁へ外らして、独り言のように呟いた。

「もう、駄目だ。旦那ができてしまったからなあ」

「出来ないうちなら?」

「生命もやったろうよ」

横窓に、大川の水や舟が見えた。お喜代は、三味線を膝にのせて、

「――お稽古しましょう」

「願おうか」

露八は、畏まった。なるほど、お喜代が彼をお師匠さんと呼ぶのはおかしい。教える者はお喜代で、習う方は露八だった。

姉のお蔦からも、毛抜き鮨の二階では、よく教わったものである。今ではかなりな物が弾けもし唄いもされるが、数となると幾つも上げていないし、荻江節の指南で飯を食おうとなると、いくら、喉がよくても、器用でも、修業としてはまだはなはだ心細い。そんなわけで、お喜代が、閑暇を見ては稽古に来てくれるのだった。露八はまた、お喜代からこうして稽古をつけてもらっていると、心から滲みだす自分の声と彼女の絃のふるえとが、一つものに溶け合って、泣きもし、笑いもし、私語きもし、恋以上のあらぬ情慾などはすっぱりと忘れてしまうのだった。