Japanische Klassiker mit Furigana
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まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
Lesen Sie 松のや露八 (まつのやろはち) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 125.597 Zeichen · 253 Bildschirme
にが虫
一
「おい、お客」
露八は、障子をあけて、そこから首を出して呼んだ。
「支度ができたからおいで――」
にが虫
一
「あら……おまえは?」
清麗な老嬢は、その時、石をぶつけられた藪鶯のように吃驚した声をして、幇間の桜川を措いて灸点師の前へ走っていた。
「露八さんじゃないか?」
「あっ……お菊ちゃん」
「まあ……あきれた……」
浜中屋の娘の、笛のお菊ちゃんであった。
変わったお互いの姿を語りあうよりも先に、お菊ちゃんは怨をふくんだ眼で、
「おまえは、ほんとにひどい人ですね。穴守の茶屋へ私を待ち呆けさせたまま、聞けばあの時あの脚で、上方へのぼってしまったのだということじゃありませんか」
「そうそう、そんなことがあったなあ」
「あったなアもないもんです。……だけど、いつから静岡へ来ていたの」
「もう、四、五年」
「あら、私も四、五年になるんだけれど、どうして今日まで会わなかったんでしょう」
「お菊ちゃんも、いい奥様ぶりになったな。江戸の美い女が、みんな、薩摩ッぽや、長州弁の官員様の女房に取られちまうのを見ているのはさびしい。勝てば官軍か」
「よしてください。私は相かわらず病身だから、今でもきれいに独り身なんだよ。