Japanische Klassiker mit Furigana
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まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
Lesen Sie 松のや露八 (まつのやろはち) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 125.597 Zeichen · 253 Bildschirme
稲荷裏
一
長崎の紅毛人が、日本に永く来ていても、やはり牛酪から離れ得ないように、どこに住んでも、お蔦と露八の住むところには、下駄の鼻緒から茶碗の模様一つにまで、江戸人の江戸好みがおのずから生まれて、あれから四年越しというものは、蝸牛のように、二人して、世帯に江戸を持ち廻って歩いていた。
長崎にもいた。博多にも半年ほどくらしてみた。しかし、どこへ行っても、この他国者夫婦は、土地性に合わない、肌を持っているために、稼業にはありついても、人交際いとか、習慣とかに、馴じみきれず、一年と居着いた土地はないのであった。それがこの下ノ関へ移ってからは、もう二年の余も、長火鉢を据えているので、小さいながら世帯にも錆がついて、もう滅多には動きそうもないし、動きたくもない気持になっていた。
場所は、稲荷町の遊廓の裏だった。お蔦は自前芸妓として、廓の大坂屋とか、山の春帆楼や風月などを出先に稼いでいるのである。共稼ぎという意気で、露八は、荻江の看板を路地の角に掛けてみたが、荻江の節や絃も、上方あたりまでは聴く人もあるが、この辺ではてんで気にとめてくれる者もない。で、露八は、髪結の亭主と同じように、傍目からみればいい身分のような境涯だった。