Japanische Klassiker mit Furigana
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まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
Lesen Sie 松のや露八 (まつのやろはち) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 125.597 Zeichen · 253 Bildschirme
「ご免――」
格子を開けると、
「はい」
艶いた返辞が、茶の間あたりでする。
簀戸の腰板に、観世水が透かし彫りになっていた。藍と白の浴衣に、紅い帯揚げが、ちらりと、そこに動いた。
「いらっしゃいませ」
十七、八の下町風で、髪に疋田鹿の子を、愛くるしく、かけていた。
「は」
庄次郎は、口が渇いて、まず、お辞儀をするほかなかった。
娘は、おかしそうに、
「お稽古でございますか」
「いや」
慌てて、
「――荻江さと殿とは、ご当家ですな」
「お稽古日なので、お師匠さんは、二階にいらっしゃいますが、ま……お上がりくださいませ、どうぞ」
如才がないし、娘は、美しかった。奥には、板新道の雛妓らしいのが、五人ほど、水盤をのぞき合って、明礬の辻占だの、水草の弄具などを咲かせて、騒いでいる。
「ご遠慮はいりませんから――こちらへ」
「実は、ちと」
庄次郎は、なお固くなった。
「さと殿に、会いたいが」
「お稽古中は、降りて参りませんから、少し、お涼みくださいませ」
水団扇だの、煙草盆だの、座敷において、娘は、麦湯を汲んでいた。
(どうしよう?)
庄次郎は、迷ったが、二度と来る勇気はない。で、上がりこんで、袴のヒダを気にしながら、畏まっていた。