Japanische Klassiker mit Furigana
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へいけがに
伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集
岡本 綺堂
Lesen Sie 伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集 (へいけがに) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 203.094 Zeichen · 411 Bildschirme
暗い石段を降りて、もとの海岸づたいに宿へ帰ると、となりの座敷では女たちの話し声がきこえた。
「おい、田宮君。ゆうべのことを訊いてやろうか。」と、本多はささやいた。
「よしてくれたまえ。いけない、いけない。」と、田宮は一生懸命に制していた。
表二階はどの座敷も満員で、夜のふけるまで笑い声が賑かにきこえていたが、下座敷のどん詰まりにあるこの二組の座敷には、わざわざたずねて来る人のほかには誰も近寄らなかった。廊下をかよう女中の草履の音も響かなかった。かの竹垣の裾からは虫の声が涼しく湧き出して、音もなしに軽くなびいている芒の葉に夜の露がしっとりと降りているらしいのが、座敷を洩れる電燈のひかりに白くかがやいて見えた。三人は寝転んでしゃべっていたが、その話のちょっと途切れた時に、田宮は吸いかけの巻きたばこを煙草盆の灰に突き刺しながら、俄かに半身を起こした。
「あ、あれを見たまえ。」
二人はその指さす方角に眼をやると、縁側の上に、一匹の小さな蟹が這っていた。それは、ゆうべの蟹とおなじように、五色にひかった美しい甲を持っていた。田宮は物にうなされたように、浴衣の襟をかきあわせながら起き直った。