Japanische Klassiker mit Furigana
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へいけがに
伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集
岡本 綺堂
Lesen Sie 伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集 (へいけがに) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 203.094 Zeichen · 411 Bildschirme
その鉢巻の下には少し飛び出した眼玉が蝦蟇のように大きく光っていた。
「侍従、近う寄れ。」と、師直は声をかけた。
先刻とは人が違ったような、むしろ薄気味わるいほどに物静かな、柔かい声で招かれて、侍従は少しためらったが、そばには小坂部が付いているのに安心して、かれは会釈して一と膝すすませると、師直はつづけて言った。
「お身に頼みがある。この歌をとどけておくりゃれ。」
誰にと訊き返すまでもなく、その届けるぬしを侍従はすぐに覚った。迷惑の色は見るみるかれの顔の上に湧き出した。
「ならぬというか。どうじゃ。」と、師直はかさねて言った。
その声はやはり静かであった。彼はしばらく黙って相手の顔を見つめていた。彼の物をいう時のほかは其の口を固く一文字にむすんでいたが、その大きい眼の中には怪しい笑みが泛かんでいるのを侍従は見逃がさなかった。しかしこれはどう考えても難儀の使いであるので、侍従はわざとその意を読みかねたように黙っていた。
「はは、まだ判らぬか。それとも、どうでもならぬか。」
いつもならば戦場で千騎万騎を叱する坂東声を筒いっぱいにふり立てて、頭から噛みつくように罵りたけるわがままのあるじが、これほどの強い忍耐力をもって自分に対するというのが、侍従に取っては却って怖ろしいもののようにも感じられた。