Japanische Klassiker mit Furigana
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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
Lesen Sie 江戸三国志 (えどさんごくし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 577.271 Zeichen · 1141 Bildschirme
「水か」
と早速土間から部屋のなかをのぞき込んで、
「お、そこに居る娘、済まないけれど、湯飲みへ水を一杯くんでくれないか」
うす暗い行燈の灯をよけて、壁の隅に身をちぢこめていたお蝶に向って、何の気もなく、こう頼んだものです。
「…………」
「水じゃ、水を一杯」
「…………」
「これ、娘……」
ところが先は唖か聾か、いくら頼んでも一向返辞をしてくれませんから、金右衛門も少し変な顔をして、後ろの連れへ苦笑をしてみせますと、これはどうしたことだろう、その日本左衛門の視線と先の娘の目とは、自分の肩越しに絡みついたようになって、ジッと睨み合ったまま双方物を言うどころの様子でないので、何とは知らずギョッとして思わずその視線と視線の間から身を退きました。
そこを日本左衛門の手が、押し退けるように金右衛門の胸を払って、
「おっ、お蝶だな、てめえは」
片足をかけるや否、一跳足に、部屋の中へ跳り立ちましたが、とたんに、家のどこかへ穴でもあいたように、どっと一陣の風が吹ッこんで来たかと思うと、そこの行燈の灯が見事に攫われました。
と、一緒に、一枚の雨戸が外へ転落して、その一枚だけの空間に星の夜空が見えたのです。