Japanische Klassiker mit Furigana
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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
Lesen Sie 江戸三国志 (えどさんごくし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 577.271 Zeichen · 1141 Bildschirme
怖い誘惑
「アアお金が欲しい。着物だって下駄だって……これじゃ町が歩けやしない」
帯や裾を振向いて、お蝶はそれのみ苦になりました。そして、飢えている境遇は忘れて、何よりも着物と白粉が欲しくてたまりません。つまり、それを求める金が欲しい!
故郷へ帰省したものが第一に、生れた家を訪れるように、お蝶は江戸へ着いた日に、もう浅草へ行っていました。
田舎のお婆さんでも被りそうな、性のぬけた小紋の古い頭巾を、眉までかぶって裾綿のはみ出している着物に、薄よごれのした帯を大きく結んで――。
そして、羽子板店の市に立ったり、呉服屋の暖簾の前に見とれていたり、暮の買物をしてゆく女の髪や身づくりを振顧ったりなどして、やがて、奥山の雑鬧へぶらついて来ましたが、あの瓢箪池から裏田圃まで軒をならべている安芝居や見世物などは、今のお蝶には、あまり魅力のないものでした。
「……お金、お金、お金」
……一心にこう思いつづけていると、誰か、お蝶の五本の指をそッとつかんで、真っすぐになった手のひらを、じいっと見ている人がある。
オヤこの人は、私の手相でも見るというのか、それとも私が、あまり可愛らしい手をしているので、いやらしい事でもするのかと思っていると、……一枚二枚三枚四枚と、その手へチャラチャラと小判を読みながら滑り落としてくれる。