Japanische Klassiker mit Furigana
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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
Lesen Sie 江戸三国志 (えどさんごくし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 577.271 Zeichen · 1141 Bildschirme
と、言ううちに秦野屋は、もうスタスタと辻堂の前へ歩いて、そこに腰をおろしていたお粂へ、さあらぬ調子でことばをかけています。
「おおひどい、この汗だ。今帰って来ましたよ」
「たいそう早かったじゃありませんか」
お粂は辻堂に身を休めながら、あたりの暗をさまよう螢の美しさに見とれていたので、待つ間も、永いともさびしいとも思っていなかったようです。
「何さ、先様でも、上がって行けの泊って行けのと、しきりに袖を止められましたが、こんな所へ、ひとりで残しておいたお前のことが心配でな。は、は、は、は、は」
お粂は、相手が笑いながら手を握って来たので、年甲斐もない好色と、心のうちでおかしく思っていましたが、
「おう、そこでなお粂さん」
と、九兵衛は引っ立てるように彼女の腰を立たせて、
「わしが、待っている者があるからとツイ口をすべらせたので、荷元の旦那がそこまで一緒に来ていらっしゃるのだ……何とでもいいから、ちょっと、あいさつをしてくれないか。なあに、まのわるい事があるものか」
「荷元の旦那が?」
「うム、それ、そこに立っておいでになるお方だ」
変なことを言う?
お粂の直覚が九兵衛の顔に鋭くうごいた途端です。