Japanische Klassiker mit Furigana
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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
Lesen Sie 江戸三国志 (えどさんごくし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 577.271 Zeichen · 1141 Bildschirme
約束のとおり老人は、窓もふすまも閉めきって、燭を机の左に寄せ、例の樟板の絵図面へ筆をとって、丹精な解字をそれへ書きこむことに、夜の深沈たる寒さも、身にせまりつつある禍いの影も、まったく心にない様子です。
――と、切燈台の燈芯が、ボッと、赤い焔を横に寝かしましたので、オヤと、老人が筆を止めて横を見ると、そこが、三、四寸ほど開いている。
「誰じゃ」
激しくいったが、答えがない。
「誰じゃ、そこを開けたのは」
立って、ふすまの外をあらためようとした時です。自分のうしろにさした人影に、ヒョイと振顧ってみると、黒々と装った頭巾の男が、冷然と、自分の上から樟板の絵図面をながめ澄ましている。
前差の刀、尺二、三寸の短いもの、それを抜いて、いきなり老人が、
「曲者ッ」
と、のどを破ッていった短いことばも、語尾は血煙の中にかすれて、皆まで聞こえなかった程です。
床をうしろに立っている日本左衛門、その手は柄を握って待っていました。かッといったかと思うと、振り向いた老人の肩先へ、抜き打ちに落ちて行った冷刃! 彼の手に馴れた長船です。深く、肋へかけたその切ッ先は、ななめに通った床框の一端にポトッ――と赤い糸をひいていました。