Japanische Klassiker mit Furigana
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よあけのつじ
夜明けの辻
山本 周五郎
Lesen Sie 夜明けの辻 (よあけのつじ) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 42.801 Zeichen · 86 Bildschirme
父はそれを聞くのがいやでしたそうで、ずっと納戸へしまったきり出させませんでしたの……家へ来て絵を描いたかたは、たいていまた、二度め三度めとお寄りなさいましたけれど、この屏風を描いたかただけは、それっきり音沙汰がございませんてしたわ……いまどうしていることでしょう」
「もうずいぶん昔のことですね」
久馬はそっと眼を閉じた。
彼は佐和を恋していた。物心のつく頃から彼女の俤を追っていた。しかし彼は自分の家柄の低いことを恥じ、自分の才分の拙いのを恥じ、容貌の醜いのを恥じていた。
――自分などの手の届くひとではない。
絶えずそうおのれを抑えながら、苦しい日を送ったものである。三年まえに江戸へ立ったときは、ふたたび彼女を見ることができぬという辛さより、側にいることの苦しさから脱れられるのを悦んだ……三年の時日はやっぱり彼の心にも忘却の救いを与えてくれた。ときおり、幻を描いてみることはあっても、絶望的な、身を噛むような悩しさには襲われなくなった。
――あのひとは、あのひとに相応しい人間と結婚するだろう。そして子を生み、やがて老いてゆくことだろう。
しかし、おれの心にはあのひとが残っている。