Japanische Klassiker mit Furigana
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ひがんすぎまで
彼岸過迄
Lesen Sie 彼岸過迄 (ひがんすぎまで) von Natsume Sōseki (夏目 漱石) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 195.333 Zeichen · 385 Bildschirme
彼はやむを得ず車夫に梶棒を向け直させて、思いも寄らない本郷へ行けと命じた事を記憶していた。
彼は寝ながら天井を眺めて、自分に最も新らしい昨日の世界を、幾順となく眼の前に循環させた。彼は二日酔の眼と頭をもって、蚕の糸を吐くようにそれからそれへと出てくるこの記念の画を飽かず見つめていたが、しまいには眼先に漂ようふわふわした夢の蒼蠅さに堪えなくなった。それでも後から後からと向うで独り勝手に現われて来るので、彼は正気でありながら、何かに魅入られたのではなかろうかと云う疑さえ起した。彼はこの浅い疑に関聯して、例の洋杖を胸に思い浮べざるを得なかった。昨日の男も女も彼の眼には絵を見るほど明らかであった。容貌は固より服装から歩きつきに至るまでことごとく記憶の鏡に判切りと映った。それでいて二人とも遠くの国にいるような心持がした。遠くの国にいながら、つい近くにあるものを見るように、鮮やかな色と形を備えて眸を侵して来た。この不思議な影響が洋杖から出たかも知れないという神経を敬太郎はどこかに持っていた。彼は昨夕法外な車賃を貪ぼられて、宿の門口を潜った時、何心なくその洋杖を持ったまま自分の室まで帰って来て、これは人の目に触れる所に置くべきものでないという顔をして、寝る前に、戸棚の奥の行李の後へ投げ込んでしまったのである。