Japanische Klassiker mit Furigana
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ひがんすぎまで
彼岸過迄
Lesen Sie 彼岸過迄 (ひがんすぎまで) von Natsume Sōseki (夏目 漱石) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 195.333 Zeichen · 385 Bildschirme
妻に聞くと子供の部屋だろうというので、縁伝いに戸を開けると、彼は咲子の机の前に坐って、女の雑誌の口絵に出ている、ある美人の写真を眺めていた。その時彼は僕を顧みて、今こういう美人を発見して、先刻から十分ばかり相対しているところだと告げた。彼はその顔が眼の前にある間、頭の中の苦痛を忘れて自から愉快になるのだそうである。僕はさっそくどこの何者の令嬢かと尋ねた。すると不思議にも彼は写真の下に書いてある女の名前をまだ読まずにいた。僕は彼を迂闊だと云った。それほど気に入った顔ならなぜ名前から先に頭に入れないかと尋ねた。時と場合によれば、細君として申し受ける事も不可能でないと僕は思ったからである。しかるに彼はまた何の必要があって姓名や住所を記憶するかと云った風の眼使をして僕の注意を怪しんだ。
つまり僕は飽くまでも写真を実物の代表として眺め、彼は写真をただの写真として眺めていたのである。もし写真の背後に、本当の位置や身分や教育や性情がつけ加わって、紙の上の肖像を活かしにかかったなら、彼はかえって気に入ったその顔まで併せて打ち棄ててしまったかも知れない。これが市蔵の僕と根本的に違うところである。