Japanische Klassiker mit Furigana
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あらじょたい
日本の文学 9 徳田秋声(一)
徳田 秋声
Lesen Sie 日本の文学 9 徳田秋声(一) (あらじょたい) von 徳田 秋声 (とくだしゅうせい) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 346.393 Zeichen · 692 Bildschirme
海岸の山には、木々の梢が美しく彩られて、空が毎日澄みきっていた。小高いところにある青い蜜柑林には、そっちこっちに黄金色した蜜柑が、小春の日光に美しく輝いていた。
湯からあがって、谿川の音の聞える、静かな部屋のなかに、差し向いに坐っている二人のなかには、初めて一緒になった時のような心の自由と放佚とが見出されなかった。そして何か話し合ったり、思い出したりしていると思うと、それが過去のことであったり、前途のことであったりした。
「前やい――。」
浅井は海や人家などの幽かに見える山の麓に突っ立っていたとき、大きな声を張り上げて叫んだ。そして独りで侘しげに笑った。声は何ほどの反響をも起さないで、淋しく山の空気に掻き消えた。
「おっと危い危い。」
浅井は足元の崩れだした山腹の小径に踏み留まって、お増の手に掴まった。
「いやね。」とお増はその手を引っ張ったが、心は寂しいあるものに涵されていた。蜜柑の匂いなどのする四下には、草のなかに虫がそこにもここにも、ちちちちと啼いていた。
にやにやしている男の顔を、お増は時々じっと瞶めていた。悪戯な企みが、そこに浮いてみえるようであった。