Japanische Klassiker mit Furigana
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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
Lesen Sie 江戸三国志 (えどさんごくし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 577.271 Zeichen · 1141 Bildschirme
とお蝶はあわてて地袋の中へそれを戻して、何気ない顔を作ってひとみを上げますと、日本左衛門ではありません。
「こいつはいけねえ、座敷ちがいをしてしまった。へへへへ、つい酔っているもんですから、飛んだ失礼をして、ごめんなすっておくんなさい」
無論、額風呂の客にはちがいありますまいが、作り笑いをした眼元に一癖のある町人が、ヒョコヒョコ頭を下げながら、ぷいと縁先から姿をかくしました。
ですが、町人の去ったあとも、いつまでもお蝶の胸は動悸が納まらないように、あの睫毛の濃い眼を見ひらいたまま。
「ああ、よかった……」
と暫く胸騒ぎをおさえています。
こうして、ある時は女のまま、ある時は若衆の男姿で、恋に寄せて、彼に近づいておりますが、もし今の挙動を、あのけい眼な日本左衛門にちょっとでも見られたならば、もう彼女の運命も長くは無事でいられません。
すると、すぐその後へ、濡れ手拭をさげた日本左衛門が戻って来て、
「アア、さっぱりとした」
だるそうに湯上がりのした両足を、畳の上へ投げ出しました。
彼の姿を見た途端に、お蝶の眼ざしはさりげなく鋭さを消して、
「すこし髪がくずれましたのね、私が、梳いてあげましょうか」