Japanische Klassiker mit Furigana
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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
Lesen Sie 江戸三国志 (えどさんごくし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 577.271 Zeichen · 1141 Bildschirme
だが……」と日本左衛門は、胸に来ているお蝶の白い手の甲へ自分の手を重ねて、
「お前は、なぜ一つ宿に、泊まっていないのだ。そうすれば、滅多に犬に嗅ぎつけられることもないのだが」
「だって、日が暮れると、あなたこそどこかへ出て行ってしまうんですもの」
「そりゃ白浪の世渡りには当り前だ。おれたちが、夜をムダに過していちゃ、飯の食い上げになるだろうじゃねえか」
「だから、私も家へ帰るのよ」
「家へ? ……」と、男の眼が自分へ来ると、お蝶はあわてて打消して、
「家と言っても、わたしに家なんかありゃしませんけれど、そッと、切支丹屋敷へ寝に帰るのよ」
「それが、おれには少し、合点がゆかない」
「なぜ?」
と、お蝶はまぎらすように、男の体をゆすぶりましたが、彼の面持ちはやや真面目です。
「なぜというまでもない話だ。あの切支丹屋敷は、お前にとっては、怖ろしい故郷だぜ」
「エエほんとに、怖ろしい故郷ね、あそこの憶い出に、一つだッて、いい過去はありゃしません」
「まして、宗門役人のいる場所だろう、それを、所もあろうに、毎晩そこへ寝に帰るというのは少しおかしい話だ」
「ところが、今のような、岡ッ引や何かが絶えず尾け廻る外よりも、あの広い山屋敷の方が、どれほど私には安心なのか知れないのよ。