Japanische Klassiker mit Furigana
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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
Lesen Sie 江戸三国志 (えどさんごくし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 577.271 Zeichen · 1141 Bildschirme
今も、庭の裏口から、宿の草履をはいて外へ出た月江は、磯からくる風に黒髪を吹かせて、それへ軽く手をあてながら、
「おりんや」
と、涼しい目を細めて呼ぶ。
「はい」
「お前はほんとに人なつこいね」
「なぜですか、お嬢様」
「だって、あんなお侍様に、いきなりお風呂ですか――なんて声をかけるのだもの」
「ちッとも突然ではございません、私は、もう朝夕ごあいさつをしているんですから」
「まあ……」と仰山に、
「おまえはいつのまに、あのお侍様と御懇意になっているのかえ」
「ホホホホ……お嬢様ッてば」
「何がおかしいの」
「わたし、御懇意にしたからッても、べつだん何でもありゃしませんのに」
「だから、何でもあるといやアしないのに、お前こそ、よッぽどおかしい」
「お嬢様こそ、よッぽど妙です」
「いいよ、おりん。旅先だと思ってたくさんおいじめ、高麗村へ帰ったらお祖父様にいいつけてあげるから」
「あら、お怒り遊ばしたんですか。――お嬢様そんなに早く行かないで」
「いいよ、いいよ。お前はあッちへ行って、相良様とたくさんお話し!」
くるりと身を廻して、温泉宿の垣の根にさいている、連翹の花をむしりとって、おりんの笑くぼへぶっつけました。