Japanische Klassiker mit Furigana
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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
Lesen Sie 江戸三国志 (えどさんごくし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 577.271 Zeichen · 1141 Bildschirme
「寄ってゆかない、この人は」
「薄情者」
「素どおりはひどい」
などと、この昼なか、多少人前というものもあろうに、容赦なく袂をつかんで、格子の前を離しません。
先生は弱って――と言っても、迷惑やら嬉しいやら分らない表情で、
「オイ、くすぐッたい、くすぐッたい、放せ放せ放せ」
と悲鳴と共に手を振っている。
「このひとは、おとといの晩、あんないたずらをして帰って、よくもしゃアしゃアとうちの前を通れたよ」
「さ、上がってらッしゃいよ」
「堪忍してあげるから」
「上がらないうちは、通さない」
屋根びさしにはカンカンと陽がある時刻ですから、馬春堂先生たりとも、多少きまりがわるくなって、
「ばか、人が見るぞ」
「見たっていいじゃないの、わたしの色だもの」
「あやまった、助けてくれ」
「意気地なし」
「なんでもよろしい、今日ばかりは勘弁勘弁。わしは喧嘩を見に来たんだからな」
「喧嘩なんか、とっくの昔におしまいですとさ」
「それならまた来るよ。出直してな」
「うそばッかり」
「ア痛っ」
背なかをどやしつけられて、やっと放免された馬春堂先生、ほうほうのていで抜け裏を出て来ましたが、さすがに、色男にはなりたくないものだと、例の長い顎をなでてみる自信もこの時はないようでした。