Japanische Klassiker mit Furigana
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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
Lesen Sie 江戸三国志 (えどさんごくし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 577.271 Zeichen · 1141 Bildschirme
お蝶の胸は一枚ごとにオドオドと躍り立つ。
……四枚、五枚、六枚、七枚、おお拾両、拾五両。
「うれしい!」
と思わずその男の顔を見る。男は意外にも日本左衛門だったので、彼女は、恥しそうに顔を隠しました。
すると日本左衛門の人さし指が、横を向いたお蝶の、ちょうど笑窪の辺りを軽く押して、
「お蝶、しばらくだったなあ。あれ以来、おれはお前を忘れかねているのだよ。お前は? エ? お前は?」
こう言って、男らしい幅のある胸と腕が、じりじりと息づまるまで抱きしめて来たので、お蝶はきまり悪さに身を縮めましたが、その弾みに、手に乗せていた小判がチャランと寒い響きを散らして足元にこぼれました。
その音に、ぶるッと身ぶるいをして、お蝶は眼瞼をハッと開く。
夢でした。
そこはお蝶が夜に入ってから、宿る所がなく身を休めていた観音堂の廂の下で、彼女は今、歩き疲れた体を氷のような板縁に縮めたまま、とろとろと居眠っておりましたので、醒めて見れば、日本左衛門のすがたも小判の色もなく、あるのは、飢えと寒さにガタガタふるえている深夜の我が身一つであります。
「寒い! ……」
とろとろと眠った後の寒さはかくべつで、お蝶は知覚のないわが身をひしと抱きしめます。