Classiques japonais avec furigana
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みっつのあざ
怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集
小酒井 不木
Lisez 怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集 (みっつのあざ) de 小酒井 不木 (こざかいふぼく) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 196 140 caractères · 396 écrans
「それは何時頃だったでしょうか」
「はっきり覚えて居りません」
「あなたは古泉堂から、すぐさま御宅へ御帰りになりましたか」
「いいえ、途中、新栄町の芳香亭へ立寄って帰りました」
「芳香亭を御立ちになったのは何時でしたか」
「よく覚えて居ませんが十一時過ぎではなかったかと思います」
覚えて居ないどころか、はっきり覚えて居たに拘わらず、彼はこう答えざるを得なかった。
「そうすると、ちょうど、富倉町を十二時頃御通りになった訳ですね。あなたが御通りになったとき、ある家の中から女の悲鳴のような声は聞えませんでしたか」
康雄は何となく、気味が悪くなって来た。
「いいえ」
と答えた声には、ひどく力が無かった。
刑事はさぐるように康雄の顔を見つめて居たが、
「若しや、あなたが御通りになったとき、家の中から、一人の若い女が飛び出しては来ませんでしたか」
「知りません。知りません」
康雄の声は顫えて居た。
「そうですか」と、刑事は疑うような調子で言った。「実は、古本の新聞紙の包のすぐそばに、セルロイドのヘーヤピンが一本落ちて居たのです。地面には別に足跡が見られませんけれども、何となく、中から飛び出して来た女が、通りがかりのあなたにすがりついたように思われるのです。