Classiques japonais avec furigana
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みっつのあざ
怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集
小酒井 不木
Lisez 怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集 (みっつのあざ) de 小酒井 不木 (こざかいふぼく) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 196 140 caractères · 396 écrans
弟の弘と二人暮しの閑寂な生活で、ビリーは自分の愛児のようになつかしかった。
「弘ちゃんは遅いのねえ、きっとまたどこかへ寄り道をしてくるのよ。悪い人ねえ」
突然、ラウドスピーカーが昼間演芸の放送をはじめた。零時十分なのだ。
「そうそう、お薬をのまなけりゃ、ちょっと待っていらっしゃいよ」
彼女が膝の塵をはたきながら立ち上ると、ビリーは、どたりと腹を地に据えて、前脚をつき出した。
前の放送の終った頃にのませるべき筈だったのを、うっかりして居た責任感から、由紀子はあわてて椽側にかけ上った。そうして、ラジオセットの前に来ると、ビリーの薬袋はどこへ行ったか見当らなかった。
「放送が始まったら、ビリーに薬をやることにしましょう。そうすりゃ、いくら忘れっぽい姉さんでも大丈夫だろうから」
ビリーが病気にかかった時、弘はこう発議して、いつも、薬袋を其処へ置くことになって居た。その薬袋がないのである。由紀子は暫く考えて居たが、
「そうそう、今朝弘ちゃんが、楊枝をつかいながら嚥ませて居たから、……そうかも知れない」
独り呟き、独りうなずいて、彼女は階段を上りかけたが、突然中途で、釘づけにされたように立ちどまった。