Classiques japonais avec furigana
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こぞうのゆめ
潤一郎ラビリンスV――少年の王国
谷崎 潤一郎
Lisez 潤一郎ラビリンスV――少年の王国 (こぞうのゆめ) de 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 71 989 caractères · 144 écrans
酒は凡人の藝術だ。
己はこんな口実を設けて、近頃頻々と酒を飲む。どうして己に、其れ程の小遣いがあるかと云うと、大きな声では云えないが、帳場の金を少しずつ誤魔化して居るのだ。買い物にやられる度毎に、己はこっそりと頭をはねる。店の商品を内證で売って代価を自分の懐へねじ込む。此の間も番頭が、棚にあったシャンパンの壜が一つ足りないと云って、大騒ぎをして居たが、正直を云うとアレは己がちょろまかしたのだ。だが幸いにも、己は非常に智恵を働かせて、店員の眼を晦ます事が上手なので、未だ一遍も馬脚を露わした例がない。みんな己を正直な、学問好きな小僧だと思い込んで居る。此の調子だと、己はいよ/\図に乗って堕落する一方だ。
酒を飲むにも、銀座のカフェエは人に見られる憂いがあるから、絶対に足を踏み入れない。いつも自転車で用足しに出るついでに、下町ならば人形とか浅草の公園とか、山の手ならば神楽坂とか、わざ/\遠廻りをして、一品料理の洋食屋やおでん屋の暖簾をくぐる事にきめて居る。尤も、日本酒を飲むと臭いで感づかれるから、大概ウイスキーにきめて居る。アルコオル分の強い奴を二三杯ぐっと引っかけて、暇があると芝居の立見や活動の小屋をのぞいて、店へ帰って来る迄には好い加減酔いが覚めてしまう。