Classiques japonais avec furigana
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こぞうのゆめ
潤一郎ラビリンスV――少年の王国
谷崎 潤一郎
Lisez 潤一郎ラビリンスV――少年の王国 (こぞうのゆめ) de 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 71 989 caractères · 144 écrans
向きが少しずつ苦しくなって居た所へ、妻の肺病で一家は更に悲惨な状態に陥って行った。貝島は毎月三十日が近くなると、一週間も前から気を使って塞ぎ込むようになった。貧乏な中にも皆達者で機嫌よく暮らして居た東京時代の事を想うと、あの時の方がまだ今よりはいくらか増しであったようにも考えられる。今では子供の数も殖えて居る上に、いろ/\の物価が高くなったので、病人の薬代を除いても、月々の支拂いは東京時代とちっとも変らなくなって居る。それに、若い頃なら此れから追い/\月給が上ると云う望みもあったけれど、今日となっては前途に少しの光明もあるのではない。
「そう云えば東京を出る時に、あなた方がMへお引越しになるのは方角が悪い。家の中に病人が絶えないような事になりますッて、占い者がそう云ったじゃないか。だから私が何処か外にしようッて云ったのに、お前が迷信だとか何とか笑うもんだから、御覧な、きっとこう云う事になるんじゃないか」
貝島が溜息をついて途方に暮れて居る傍で、何かと云うと母親はこんな工合に愚痴をこぼした。細君はいつも聞えない振りをして、黙って眼に一杯涙をためて居た。