Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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たまものまえ

玉藻の前

岡本 綺堂

Leggi 玉藻の前 (たまものまえ) di 岡本 綺堂 (おかもときどう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 130.703 caratteri · 261 schermate

Aozora Bunko

婆の姿は見えなかった。

風のない秋の日は静かに暮れて、薄い夕霧が山科の村々に低く迷ったかと思うと、それが又だんだんに明るく晴れて、千枝松がゆうべ褒めたような冴えた月が、今夜もつめたい白い影を高く浮かべた。藻が門の柿の葉は霜が降ったように白く光っていた。

「藻よ。今夜はすこし遅うなった。堪忍しや」

千枝松は息を切って駈けて来て、垣の外から声をかけたが内にはなんの返事もなかった。彼は急いで二、三度呼びつづけると、ようように行綱の返事がきこえた。藻は小半も前に家を出たというのであった。

「ほう、おくれた」

千枝松はすぐにまた駈け出した。その頃の山科から清水へかよう路には田畑が多いので、明るい月の下に五町八町はひと目に見渡されたが、そこには藻はおろか、野良犬一匹のさまよう影も見えなかった。千枝松はいよいよ急いてまっしぐらに駈けた。駈けて、駈けて、とうとう清水までひと息にゆき着いたが、堂の前にも小さい女の拝んでいるうしろ姿はみえなかった。念のために伸びあがって覗くと、うす暗い堂の奥には黄色い灯が微かにゆらめいて、堂守の老僧が居睡りをしていた。千枝松は僧をよび起こして、たった今ここへ十四、五の娘が参詣に来なかったかと訊いた。