Classici giapponesi con furigana
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たまものまえ
玉藻の前
岡本 綺堂
Leggi 玉藻の前 (たまものまえ) di 岡本 綺堂 (おかもときどう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 130.703 caratteri · 261 schermate
風のない夜で、彼を取り巻いているすすきも茅萱もそよりとも動かなかった。石も動かなかった。
千枝太郎は玉藻のたましいを宿したその石を月明かりでしばらく眺めていた。彼は玉藻のために後世を祈ろうとも思っていなかった。畜生にむかって菩提心をおこせと勧めようとも思っていなかった。彼はただ、藻と玉藻とを一つにあつめたその魔女が恋しいのである。石をじっと見つめている彼の眼からは、とどめ難い涙がはらはらとこぼれ、彼は堪まらなくなって、石にむかって呼んだ。
「藻よ、玉藻よ、千枝太郎じゃ」
石は彼の思いなしか、それに応えるように、ゆらゆらと揺るぎ始めた。彼はつづけて呼んでみた。
「藻よ。玉藻よ……。千枝太郎がたずねて来たぞ」
石は又ゆらめいた。そうして、ひとりの艶やかな上臈の立ち姿がまぼろしのように浮き出て来た。柳の五つ衣にくれないの袴をはいて、唐衣をかさねた彼女の姿は、見おぼえのある玉藻であった。
「千枝太郎どの、ようぞ訪ねて来てくだされた。そのこころざしの嬉しさに、再び昔の形を見せまする」
寒月に照らされた彼女は、むかしのように光り輝いていた。千枝太郎は夢心地で走り寄ろうとするのを、彼女は檜扇で払い退けるようにさえぎった。