후리가나로 읽는 일본 고전
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
吉川 英治의 忘れ残りの記(わすれのこりのき)을 후리가나와 함께 일본어로 읽으세요. JLPT N2. 단어를 누르면 뜻이 나옵니다.
N2 · 고급 · 신자체·신가나 · 193,050자 · 383화면
絵なんて云えるものではない。むしろ、そういう工芸目的だった下地に妨げられて、後々まで、ぼくには純な絵は描けなくなってしまったようなものだ。
浅草三筋町界隈は、まだ旧東京の庶民暮らしが、そっくりその儘、横丁や長屋の隅々にまで残っていた。煮豆屋と荒物屋の横で、四軒長屋が二た側になっており、T氏の家は、ドブ板のいちばん奥で、蛞蝓の這い痕をもった戸袋やらガタピシいう暗い格子戸がそれだった。
どこも六畳三畳二畳台所だけの棟割りだが、それでいて二坪三坪の小庭がみな付いており、目隠し板に八ツ手や楓を覗かせ、夏ならば朝顔や胡瓜を絡ませたりして、けっこう庶民の雅懐を愉しむには事足りていた。
それと、隣り三軒、前四軒の箸茶碗の物音から、喜怒哀楽の声まで、手にとる如く聞え合うので、それぞれの職業、家族、出入りまでが、一軒のものとして判断される。で、終日、蒔絵師用のじょうばんと称する机に似た物の前に坐って、輸出物の下絵仕事に根気をつめていても、ぼくは倦むことを知らなかった。
横浜の下層と、東京の下町との、違いもわかった。その前に読んでいた一葉の作品やら明治から江戸期の文芸にも見えた風物やら人の生態などにも少しずつは触れている気がした。