후리가나로 읽는 일본 고전
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
吉川 英治의 忘れ残りの記(わすれのこりのき)을 후리가나와 함께 일본어로 읽으세요. JLPT N2. 단어를 누르면 뜻이 나옵니다.
N2 · 고급 · 신자체·신가나 · 193,050자 · 383화면
その神崎騎手の名を、もう遠い過去だからと思って、実名のままぼくの“かんかん虫は唄う”の中に登場人物としてつい書いた。ところがその後、神戸市在住の神崎氏の系縁の人から、「神崎は決して貴著のなかにあるような女たらしの道楽者ではなかった。家庭人としても厳正だったし、ジョッキーとしては、内外人の称讃をうけて、裏切ったことはない」と、たいへん恨みがましく抗議されて来た。私は早速ていねいに謝り手紙を出してはおいたが、しかし公に釈明すべき機会が今日までなかった。もう戦前のことで神崎氏の遺族すらお忘れだろうが、ここにその事はぼくの作為であり誤りであったことを明らかにしておきたい。
小学一年生のその当時、やがてぼくにとって、忘れえない或る一日があった。
何でも、それはカンカン照りの暑い夏の昼だった。例のように植木会社の蝉時雨の道を通って家へ帰って来た。誰か、奥へお客が来ているらしく、玄関や庭に打水などしてあって、家の中は森閑と涼やかだった。
母は、いつものように、ぼくの足やら顔の汗を拭いてくれた。それからやがて茶の間で、新しく入れた茶を女中に奥へ運ばせてから、「あなたもお座敷へ行って、御あいさつしていらっしゃい」