후리가나로 읽는 일본 고전
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
吉川 英治의 忘れ残りの記(わすれのこりのき)을 후리가나와 함께 일본어로 읽으세요. JLPT N2. 단어를 누르면 뜻이 나옵니다.
N2 · 고급 · 신자체·신가나 · 193,050자 · 383화면
父の先妻は、小田原の花街でも評判な美人だったということである。親類中の反対も世間の悪評も押切って、一しょになったものらしい。これが土地でやかましく云われたのは、父の職業が、いわゆる当時の“官員さん”なるもので、県庁の酒税官であったせいだろう。
この酒税官時代、各地の醸造家の酒蔵を視てあるく間に、父は後年の大酒になる素地と、道楽者の味境をそろそろ培っていたにちがいない。
けれど父その者は、祖父の銀左衛門仕込みの「さむらいの子は」という薫陶を、そのまま無自覚にうけついだ自身を、自身の真骨頂としていたらしく、一徹で、頑固で、明治時代の人間に共通な覇気と、立志の夢に燃え、小田原の花街で、女出入りの評判を立てなどしたくせに、ちっとも、垢抜けのした青年ではなかったようだ。
よく自慢そうに、子のぼく達へ話した事のうちでも、その酒税官時代に、何でも天竜川の岸で、寒中だったそうだが――対岸の造り酒屋まで行くわけだが、よほど下流へ迂回しなければ渡船がない。それに日も暮れかかっていたので、ままよと、真ッ裸になって、天竜川を泳ぎ渡って行ったが、寒中の冷たさと、流れの急に、川の中ほどで溺れ損ね、「死ぬかと思った」