후리가나로 읽는 일본 고전
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
吉川 英治의 忘れ残りの記(わすれのこりのき)을 후리가나와 함께 일본어로 읽으세요. JLPT N2. 단어를 누르면 뜻이 나옵니다.
N2 · 고급 · 신자체·신가나 · 193,050자 · 383화면
それにせよ、花卉の高い香いと花樹の妍を主としたあんな広大な花園を、ぼくは日本の中では他に見たことがない。それと横浜生れの通有性で、外人の男女へ物珍しい眼をする子供ではなかったが、ここの園内を拾い歩きながら、園丁に牡丹を剪らせたり藤の花の大きな鉢を抱えさせて、なお去りがてに、躑躅や燕子花のあいだを逍遥している金髪美人や同伴の老紳士といったような外人達には、何か高貴めいた感をおぼえたものである。あたりを舞うアブや蝶々までが、翼に香気を放ち、からだに光をおびているかのように見えたりした。
園内の道は、もとより一般の通路ではなかったが、ぼくは下町への学校通いに、裏門から表門へ抜け、毎日そこを往復の近道としていた。母は毎朝、躑躅や石蘭や雪柳が崖をなしている坂道を駈けまろんでゆくぼくを家の門から見送って「……まるで鉄砲玉みたい」と、ほほ笑んでいた。ぼくはその頃から、よくよく小ッぽけな子であったとみえる。
そして当時、日々の往復に、ぼくは四季の花々から無自覚に後年の何かを教化されていたのではないかと思っている。成人してからも、特に花好きだの園芸好きなどという嗜好はないが、どういう場所に限らず、たとえば会合の食卓などでも、ふと卓上の花の香を嗅ぐと、一応すぐその頃の追憶へ連想をもって行かれてしまう習性がある。