후리가나로 읽는 일본 고전
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
吉川 英治의 忘れ残りの記(わすれのこりのき)을 후리가나와 함께 일본어로 읽으세요. JLPT N2. 단어를 누르면 뜻이 나옵니다.
N2 · 고급 · 신자체·신가나 · 193,050자 · 383화면
すべて、いろは長屋の人々は、始終、生き争う物音の中に暮していて、夏は男女とも真ッ裸同様だし、平気で猥雑な行為は見せるし、どこかの軒では必ず夫婦喧嘩をやっているし、それでいてぼくらには危害を加えないばかりか、みな親切なのである。すべてにカーテンのない自由でそして原始の儘な解放地区そのものみたいに、子供の眼には見えた。
もちろん、ぼくらの親は、口を酸ッぱくして、ぼくらがそこへ立ち入ることを固く戒め、見つかるとすぐ家へ連れ戻されたが、なお、いろは長屋の魅力はしばしば子供に親の眼を偸ませ、茶の間の小銭を手品のごとく掻き消えさせた。一体、それ程なそこの吸引力は何だったかを、今考えてみると、じつは、いろは長屋そのものに特殊な誘惑があったのではなく、本当は、子供にとって、当時の家庭は、余りに清潔すぎていただけの事である。家庭では禁断にされている未知の実をぼくらは猿の木渡りみたいに探り歩いたのだった。
ぼくの旧作に“かんかん虫は唄う”という中編物がある。あの“いろは長屋”とか、カンカン虫のトム公などは、つまりぼくの逍遥した所の幼時の記憶が生ましめた幻想で、多少のモデルは有って書いたものだが、トム公は、ぼくではない。