후리가나로 읽는 일본 고전
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
吉川 英治의 忘れ残りの記(わすれのこりのき)을 후리가나와 함께 일본어로 읽으세요. JLPT N2. 단어를 누르면 뜻이 나옵니다.
N2 · 고급 · 신자체·신가나 · 193,050자 · 383화면
名は覚えていないが二、三度主人の使いで行ったことのある俳人の一人で扇町に雑貨貿易の店舗を持っていた人がある。およそ風采のどこにも俳句気などは見えない美髯の横浜型紳士であったが、或る日の小雨のそぼ降っている晩、夕方から主人呉竹氏の紫檀机のそばに坐りこんで、雑談に時を過していたことがあった。
そのうち時々、主人とその人の眼が、ぼくの姿へそそがれて来るのを、ぼくは体で感じとっていた。印刻の夜業ランプには、硝子玉のレンズを掛けて、その明りの焦点に印面をおき、先の鋭い印刀で、パリッパリッと、微細な印字を彫ってゆくのである。それの稽古判にぼくは眼を赤くし、倉どんのように背を丸くしていたのであるが、ふと主人が「おい」と、呼ぶので顔を上げると、俳友の客が、チックで固めた美髯にちらと微笑を見せて「おい。君あ、作文が巧いんだってね。今夜、雨が降ってるから、雨という題で一文そこで書いて見給え」という唐突ないいつけだった。
どうして、ぼくの作文などを、その人はもちろん主人も知っているのだろうか。ぼくは唯まっ赤になって俯向いた。すると主人も頻りに「題は何でもよい、何か、思った文章を書いてごらん、すぐそこで書いてお見せ」