후리가나로 읽는 일본 고전
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
吉川 英治의 忘れ残りの記(わすれのこりのき)을 후리가나와 함께 일본어로 읽으세요. JLPT N2. 단어를 누르면 뜻이 나옵니다.
N2 · 고급 · 신자체·신가나 · 193,050자 · 383화면
監獄前に橋があり、河を前に代書屋や差入れ屋が軒を並べていた。その一軒に入って、母は背の赤児に乳をのませ、何か用をすますと「おまえは、ここで待っていらっしゃい。子供は入れない所だからね」と、ぼくをおいて橋を渡り、鉄と赤煉瓦の大きな門の内へ隠れてしまった。ぼくは河べりに並んでいるオボコ釣りの人の間を見て歩いたり、悪戯事を見つけて、結構、飽きもせず遊んでいた。
だいぶ経ってから、母が戻って来た。そして又、元の道を、親子四人、日照りの下を黙々と歩いた。「ぼく、お腹が減ッちゃった」と、怺えきれなくなって訴えた。たしか末吉町辺であったと思う。小さい蕎麦屋へ入った。そしてかけを一杯ずつ食べた。喰べ終ると、母はハンケチで顔の汗を拭きながら、ぽつんと云った。「英ちゃん、あんたも、しっかりしておくれね、これから、うちもたいへんなのよ」母が云う“たいへん”という意味が、この日には何かぼくにも身に沁みて少し頷かれた。ぼくの見まもる眼が引き出したように母の瞼に涙がいっぱいになった。母はあわててもいちど顔を拭き、帯の間から毛糸編みの銭入れを出して銅貨を数え、蕎麦屋の盆の端へおいた。