후리가나로 읽는 일본 고전
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
吉川 英治의 忘れ残りの記(わすれのこりのき)을 후리가나와 함께 일본어로 읽으세요. JLPT N2. 단어를 누르면 뜻이 나옵니다.
N2 · 고급 · 신자체·신가나 · 193,050자 · 383화면
店の斜向いに、日曜日以外は、いつも鉄扉の閉まっている教会堂と、脇沢金次郎翁の邸宅があった。翁は横浜成功者の平沼専蔵とか茂木、原などと並ぶ実業家だとか。どうかすると、その白頭翁が店先へ来て腰掛け込む。そして毎度、ぼくが帳場格子の中で絵ばかり描いているのを覗き、ある時こんなことを云った。「あんた、何に成るつもりかね」ぼくは大真面目で「絵かきになりたい」と答えた。すると翁は「絵かきに成りたいなら成る道へ早う進まんじゃいかんね。お父さんに云って東京の偉い先生につくか、美術学校へでも入れてもらいなさい。あんたくらいな年は大事な年頃だからな」と。これは、ぼくの頭にこびりついた。東京へ出たいという夢を掻き立て、画家だ画家だと将来を念じた。
だが父の顔を見てはそんなことを云い出せもしなかった。父は病後のせいでなくても、以前から歩くのが嫌いで、用先から用先へ、当時の医者みたいに人力車を乗廻してあるき、店にいることは全く稀であった。もっとも店は馴れた店員に任せておけば済むのかもしれないが、父の胸にはこれを機会に以前の桟橋事業か貿易方面へ返り咲きして、旧知を見返してやろうという気負いや山気が燃えていたのではあるまいか。