후리가나로 읽는 일본 고전
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
吉川 英治의 忘れ残りの記(わすれのこりのき)을 후리가나와 함께 일본어로 읽으세요. JLPT N2. 단어를 누르면 뜻이 나옵니다.
N2 · 고급 · 신자체·신가나 · 193,050자 · 383화면
朝々の廻診が来るたび、左右から看護婦たちの白い冷たい指先が、ぼくの胸をはだけ、胴中から腰全部にわたる繃帯を解いて行った。いちばんひどく打った個所は尾骨の辺で、肩や右腕の怪我は、さしたる事もないらしかった。副院長は、ぼくを眼鏡の下に見て云った。
「うまく墜ちたな、こんな程度ですんだのは奇蹟だ。命びろいしたんだよ、君は」
ぼくは羞恥いで顔をまッ赤にしていた。医師へではなく、ぼくの腰やら胸の肌をいたわりつつ仕舞ってくれる看護婦たちの白い手に対してである。こんなさいの、瀕死にちかい意識すら、昆虫の触角みたいに顫えるのだった。そして、自分の肌の汚さが案じられた。頭髪の根には鉄サビの粉を沈めていないか、どこかには赤ペンキの汚染を残しているだろうになどと、ひそかにコンプレックスに身が縮む。そのくせ、彼女たちの些細ないたわりや優しい眼ざしにもすぐ心が鳴って、何か、ここの憩いが、愉しくさえ思われた。そして漸く、この患者は、廊下を行き交う人の声にも、廻診と一しょに朝夕入って来る白粉や髪の香のほのかな物にも、鋭敏になりつつあった。
どうして墜ちたのか、奇蹟的に助かったか、前後の事や、せつなの記憶も、やがて徐々に、よみがえって来た。