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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

「あんな淫売に惚れてなるものか」

このとき、鏡の中の歪んだ顔が、ふと俺に、いやな思い出をよみがえらせた。ボル派のあの大学生崩れに俺が罵られたときも、きっとこんなぶざまな顔をしていたのだろう。理窟をこねることの好きなあいつらにかかっちゃ、かなわない。言いこめられて、俺はグウの音も出なかった。そのくやしさがよみがえってきた。

「俺たちは行動だ」

と、やけっぱちの叫びを俺はあげたものだ。

「無理論の行動は無意味だ」

と、奴はぬかしやがった。このいわゆるボル派(ボルシェヴィキの略。コムミュニストのことだ)に対して俺たちはアナーキストとして対抗していた。奴はさらに、

「無意味というだけじゃなくて階級運動への大きなマイナスだ」

とまできめつけやがった。大体、ボル派があんな生っちろい学生なんかを仲間にひき入れていることが、腹にすえかねる。親の脛かじりが、口さきだけのうまいことを言ったって、なんになる。

俺は鏡にぺっと唾をかけた。唾は鏡の中の俺のおでこのところにひっかかって、ぬるぬると顔のまんなかを流れて行った。

俺は二階に戻った。便所で会ったマリちゃんも部屋に呼びこまれていた。