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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

窓の外れの、ちょいと離れた下に、屋根が見える。しめたと、それに飛び移ろうとしたとき、股倉にかくしていたピストルがガチャリと板にぶつかって、ひやりとした。ピストルを俺は、さらしの腹巻にさきをくくりつけ、キンタマのわきにつるしていた。不審尋問にひっかかって身体をしらべられても、キンタマには手をやらない。

「這い」(屋根から忍びこむ泥棒)みたいにオカルヅタイ(屋根伝い)に逃げて、屋根から地面におろしてあるブリキのとよを、うまいこと見つけると、それを手がかりにして下に降りた。俺はキスグレ(酔いどれ)の真似をしながら、はだしで玄関へ回って、

「おい、スケマ(はきもの)出してくんな。ひとりで、さきに帰るんだ」

下足番はそんな俺をあやしんで、下足札と俺の顔をかわるがわる見ている。

「早くしねえかい」

俺はどやしつけて、

「ちぇっ、おもしろくもねえ」

車をひろって、俺は運転手に、

「トロゲンだ」

「へ?」

「吉原だよ。早くやってくれ」

トロゲンなどという隠語が俺の口から自然に出るくらい、俺の吉原通いもイタについた。淫売買いから格があがって、女郎買いになったのだ。

いや、トロゲンの女はおいらんで、女郎ではない。