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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

「矢萩さんとやらが、そのごひいきだったのか。ひいきの旦那に、こう言いな。俺を仲間にひきずりこもうと思ったら、もうすこし気のきいた手があるはずだって。おめえも、うろちょろ、ダイマク(つける)のはよせ。よさないと、おめえの生命もあぶないぞ。分ったか、このネリマヤ(大根役者)」

俺は北海道へ逃げることにした。

とにかくズラまく先がきまった。それでいいのだ。アビルの手紙がどんな効力を示すか、それは分らないが、逃げられる先がきまったことだけで、俺には充分なのだった。

「一緒に行くかい」

俺は波子に言った。

「行くわ」

けろりと波子は言ってのけた。

「エンギをかつぐわけじゃないが、この前もそうだったから、波子と一緒だと、きっとうまくズラかれる」

「それであたしを連れてくの?」

抗議の声ではなかった。俺も気持とはちがう声で、

「行けば、俺たち、夫婦にならなくちゃならない」

「もう夫婦だわ」

「そうか」

「いやなの?」

「なに言ってやがる」

「あのね、あたし、新平民なの」

それでも結婚してくれるかと言う。

「新平民は人間じゃねえとでも言うのかい」

「四郎さん。ありがと」

「波子のエトは……なに年だい?」