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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

あれから十年経っている。俺の胸はきゅっと締めつけられた。風巻が俺に何か言ったが、俺の耳にははいらなかった。十年も会ってないのだ。ずいぶんながい間会ってないわけだ。そう思うことはかえって、クララと呼ばれていたころの彼女のつめたい肌、それがしっとりと汗ばんだ感触を、まざまざと、ついこの間のことのように、俺の心によみがえらせる。

その照子が、ひょいと俺の顔を見て(そのためと――俺は思いこんだのだが)つかつかと、こっちに来た。我にもなく俺の胸は騒いだ。俺としたことが――これが度胸のいい、胆のすわった男だろうか。俺の心臓は早鐘を打っていた。

「いらっしゃい」

と照子は俺にでなく、風巻の連れに言った。やあ――とその男は言った。照子はつづいて、風巻と俺に、

「いらっしゃいませ」

と言った。新顔の客を迎える挨拶である。

照子は俺を忘れている! 俺は俺の顔が、かーっと赤らむのを覚えた。怒りか、恥か、自分でも分らない。忘れるのは当然だと、俺が自分に言いきかせていると、ここの常連らしい風巻の連れが、

「マダムだ」

と照子を風巻と俺に紹介した。そして風巻をまず、社の特派員だと照子に言い、