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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
二
「いや、それも明日でいい、いま呼んだところで、医者にもどうしようもない、じっとしているほかに手はないんだから」
二
朝になって横山参得を呼んだ。呉服橋に住む医者で、喜兵衛が癆※(「やまいだれ+亥」、第3水準1-88-46)になって以来のかかりつけだったが、診察をして帰るとき、送りに出たおしのにそっと首を振ってみせた。
「むずかしいことになった」と参得は囁いた、「こんどはあとをよほど大事にしないと、取返しのつかぬことになるかもしれない」
おしのは睡をのんだ。
「店に置いてはだめだな」と参得は首を捻りながら云った、「あのとおりの性分だから、少しおちつくとすぐに動きだすだろう、こんどは寮のほうへ移して、しょうばいのことなど忘れてゆっくり養生をさせなければいけない、それも一日でも早いほうがいい」
「はい」とおしのは頷いて云った、「なにか特に効くお薬はないものでしょうか」
「ないだろうな、この病気ばかりは特に効のある薬というのはなさそうだ」参得はまたそっと首を振った、「空気のきれいなところで、暢気にして精の付く喰べ物をたべる、そうして病勢の衰えるのを待つ、というよりほかにいまのところ手はないと思う」