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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
六
「おい伴れて来たぜ」と男は片方へ向いてどなった、「こいつがそのいかさま野郎だ」
どなるのと同時に、男は得石に足払いをくれ、力任せに肩を突きとばした。得石はきれいにつんのめり、ぬかっている地面へ転倒した。そこへまた二人の男が出て来た。
六
得石は四つ這いのまま息をひそめた。顔も両手も、着物の前も、叩きつけられた霜どけのぬかるみで、べったりと泥まみれになっている。へたに起きあがるとまたやられるに違いない、そう思ったから、その恰好のままかれらに呼びかけた。
「話せばわかる、乱暴をするな」と彼は云った、「ぜんたいなにが欲しいんだ」
「この野郎ふざけたことをぬかすな」
そうどなりさま、男の一人が得石の腰を力いっぱい蹴放し、得石はもういちど前へのめった。ぐしゃっと、顔がぬかるみへ埋まったとき、彼は屈辱と怒りのために嚇となった。こいつら、殺してくれるぞ、と胸の中で絶叫したが、起きあがって、手の甲で顔を横撫でにし、口の中から泥を吐き出すうちに、辛うじてその怒りを抑え、躯の力をぬいた。
「こんなことをしてなんになるんだ」と得石は静かに云った、「そっちにはなにか望みがあるんだろう、私を痛めつけるより、肝心な話をするほうが早くはないのか」