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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
次の医者のときもそうだ、と彼は思った。
海野得石という医者は、いかがわしい治療をして金を儲け、大川端町で「海石」という料理茶屋を、そして日本橋平松町で「豊島屋」という宿屋を経営していた。いかがわしい治療のことも耳にはいっていたし、兼業を許されない医者が料理茶屋をやり、宿屋のほうでは「日済し貸し」までやっているという事実もわかった。すると、蝶太夫が殺されてから七日めに、浅草みよし町の「ひらの」で、得石もまた若い女に殺された。女はおみのという名で、こんどは貸金の証文を残らず持ち去った。
――これも謎のようだ。
得石が貸金の証文をまとめて持っていったことは、豊島屋の番頭がはっきり認めている。だが「ひらの」にはなにもなかった。死躰の側には、証文を入れたという手提さえもなかった。「瓦版に出たから、借金をしている連中はよろこんだろう」と千之助は呟いた、「――まえには仲次郎に金を恵み、二番めには日済しの借金で困っている者たちを助けた、しかし、二人を殺すのが目的だったことに紛れはない」
それは殺しかたと、椿の花弁を一枚だけ置いたことでわかる。殺すことは初めから計画されたもので、金を与えたり証文を破棄したのはついでの仕事だ。