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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
あんな十七か八の小娘に扱われて、うろうろ駆けまわるなんて話にもならない。よっぽどのお笑いぐさだぜ、彼は自分を罵った。
大和屋は大きな構えの宿屋で、主人は仁左衛門といい、二人の町役と鳶の者などが彼を出迎えた。千之助は係の女中と、番頭や仁左衛門からざっと事情を聞いた。――事の始終はまえの二件と同様で、男が先に来、すぐに女が来て、酒と食事を注文した。女は小間使を伴れず、一人だったという。男は初めからかなり酔っていたが、そこでも一升ちかく飲み、食事には手を付けず、「泊ってゆく」と云うので、女中が寝る支度をした。
「それから、――半刻ばかり経ったでしょうか」と係の女中が云った、「酔いざめの水を忘れていたことに気がついたので、その支度をしてお座敷へゆきました、そっと声をかけましたが、もう寝ていらっしゃるだろうと思って、音のしないように障子をあけましたら、……女のお客さまがこっちへ向いて、長襦袢を着ていらっしゃるところで、あたしはっとして」
女中は恥ずかしそうに口ごもった。
女客はいま起きたところらしく、二布一枚で上半身はあらわだった。女中が声をかけたのも聞えなかったものか、吃驚して、美しい胸乳を隠したが、自分はこれから帰る、と声をひそめて云った。