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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
「自分はうちが近いから帰るが、この人はわる酔いをしているし、あのとおりよく眠っているから、朝までそっと寝かしておいてくれ、と仰しゃいました」と女中は云った、「それから、お二人の勘定と多分なこころづけを頂きましたし、べつにおかしいようなふうもみえませんでしたので」
男が殺されているのをみつけたのは、午前十時すぎだと云った。
聞いているうちに、同心と書役が来たので、千之助は二階へあがっていった。現場は端にある八帖で、井田十兵衛が退屈そうに莨をふかしていた。――座敷のまん中に夜具が延べられ、頭のほうを枕屏風で囲ってある。死躰は香屋の清一で、掛け夜具が捲ってあり、はだかった胸の、左の乳の下に、平打の銀の釵が突き刺さっていた。
千之助はぞっとそうけ立った。
黄色みを帯びた蝋のような肌へ、深く、まっすぐに突き刺さっている銀の釵が、怨念と呪いの声をあげているように思えたのである。彼は眼をそらして枕許を見た。そこには血を落したかのように、椿の赤い花片が一枚、なにかを暗示するものの如く置かれてあった。
「こんな物がありました」と井田十兵衛が云った、「枕の下に覗いていたので、取り出してみたんですが」