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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

名医でもだめだと、参得さんの云うのも聞いていたんだ」

そして喜兵衛は眼をあき、娘を見て唇に微笑をうかべた。

「わかるだろう」と喜兵衛は云った、「私はまだ死にはしない、ゆうべ吐いたのは、残っていた悪い血だ、病気の根になっていた悪い血が、ゆうべできれいに出てしまった、医者にはわからないが、私にはそれがよくわかるんだ、きょうほど、――」と云って喜兵衛はまた眼をつむった、「この病気になってから、きょうほど気持の軽くなったことはない、胸の中も洗ったようにさっぱりしたよ」

「よかったわ、よかったわお父つぁん」とおしのが云った、「でも話はもうそのくらいにして、少し眠って下さいな」

「ああ眠ろう」喜兵衛は云った、「私は眠るから、おまえもつまらない心配はしないでおくれ、――みんなが来たようだね」

おしのは振り返った。すぐに襖があいて、番頭、手代をはじめ店の者がぜんぶはいって来、襖際に並んで坐った。

「私がそう云ったんだ」と喜兵衛が云った、「おまえが挨拶をしておくれ」

おしのは向き直った。

「明けましておめでとうございます」と番頭の嘉助が両手を突いて低頭した。他の者も一斉に低頭し、嘉助が続けた、「昨年ちゅうはお世話になりました、今年はお店もますます御繁昌、私共もまたどうぞよろしくお願い申します」