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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
医者は正直なことは云わなかった。風邪がこじれて喉に傷が出来、それが咳のためにやぶれて出血したのだ。というような、苦しいごまかしを云い、それにしても厳重すぎる養生法を繰返し念を押していった。
「もうすぐよ、お父つぁん」とおしのは夢うつつのうちに囁いた、「もうすぐだから待っててね」
だが、母と源次郎の幻像はなかなかはなれず、それからさらに二日、おしのは母を呪い源次郎を呪い、自分の躯にながれている血を呪って、もだえ続けた。
このあいだに佐吉がみまいに来たが、医者にとめられているので、まさが断わりを云い、おしのには会わずに帰ったという。なにか大事な話があると云っていたそうであるが、彼は次の十日めを待たずに、また訪ねて来て、「どうしても会わなければならない」と云い張った。
おしのは起きて彼と会った。その二、三日は固粥や卵や、叩いた鳥の少量なども喰べるようになったし、病気を恐れる気持はまったくなかった。残った二人の始末をすれば、いつ死んでもいい躯である。
――いいえ、とおしのは思った。いいえそうではない、自首して出てお裁きを受け、事実をすっかり申上げなければならない、それまでは生きているのだ。